ぎょう》の舞台に変ってしまう。舞台はとにかく西洋じみた室内。そこに西洋人の人形が一つ怯《お》ず怯《お》ずあたりを窺《うかが》っている。覆面《ふくめん》をかけているのを見ると、この室へ忍びこんだ盗人《ぬすびと》らしい。室の隅には金庫が一つ。

          60[#「60」は縦中横]

 金庫をこじあけている西洋人の人形。ただしこの人形の手足についた、細い糸も何本かははっきりと見える。……

          61[#「61」は縦中横]

 斜めに見た前のコンクリイトの塀。塀はもう何も現していない。そこを通りすぎる少年の影。そのあとから今度は背むしの影。

          62[#「62」は縦中横]

 前から斜めに見おろした往来。往来の上には落ち葉が一枚風に吹かれてまわっている。そこへまた舞い下《さが》って来る前よりも小さい落葉が一枚。最後に雑誌の広告らしい紙も一枚|翻《ひるがえ》って来る。紙は生憎《あいにく》引き裂《さ》かれているらしい。が、はっきりと見えるのは「生活、正月号」と云う初号活字である。

          63[#「63」は縦中横]

 大きい常磐木《ときわぎ》の下にあるベンチ。木々の向うに見えているのは前の池の一部らしい。少年はそこへ歩み寄り、がっかりしたように腰をかける。それから涙を拭《ぬぐ》いはじめる。すると前の背むしが一人やはりベンチへ来て腰をかける。時々風に揺《ゆ》れる後《うし》ろの常磐木。少年はふと背むしを見つめる。が、背むしはふり返りもしない。のみならず懐《ふところ》から焼き芋を出し、がつがつしているように食いはじめる。

          64[#「64」は縦中横]

 焼き芋《いも》を食っている背むしの顔。

          65[#「65」は縦中横]

 前の常磐木《ときわぎ》のかげにあるベンチ。背むしはやはり焼き芋を食っている。少年はやっと立ち上り、頭を垂れてどこかへ歩いて行《ゆ》く。

          66[#「66」は縦中横]

 斜めに上から見おろしたベンチ。板を透かしたベンチの上には蟇口《がまぐち》が一つ残っている。すると誰かの手が一つそっとその蟇口をとり上げてしまう。

          67[#「67」は縦中横]

 前の常磐木のかげにあるベンチ。ただし今度は斜めになっている。ベンチの上には
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