仙人
芥川龍之介
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)琵琶湖《びはこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)皆|括《くく》り合はせ
−−
この「仙人」は琵琶湖《びはこ》に近いO町の裁判官を勤めてゐた。彼の道楽は何よりも先に古い瓢箪《へうたん》を集めることだつた。従つて彼の借りてゐた家には二階の戸棚の中は勿論《もちろん》、柱や鴨居《かもゐ》に打つた釘にも瓢箪が幾つもぶら下つてゐた。
三年ばかりたつた後《のち》、この「仙人」はO町からH市へ転任することになつた。家具家財を運ぶのは勿論彼には何でもなかつた。が、彼是二百余りの瓢箪《へうたん》を運ぶことだけはどうすることも出来なかつた。
「汽車に積んでも、馬車に積んでも、無事には着かないのに違ひない。」
この仙人はいろいろ考へた揚句、とうとう瓢箪を皆|括《くく》り合はせ、それを琵琶湖の上へ浮かせて舟の代りにすることにした。(その又瓢箪舟の中心になつたのはやはり彼の「掘り出して来た」遊行柳《ゆぎやうやなぎ》の根つこだつた。)天気は丁度晴れ渡つた上、幸ひ風も吹かなかつた。彼はかういふ瓢箪舟に乗り、
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング