僕は所謂《いはゆる》江戸趣味に余り尊敬を持ってゐない。同時に又彼等の作品にも頭の下《さが》らない一人《ひとり》である。しかし単に「浅薄《せんぱく》」の名のもとに彼等の作品を一笑し去るのは彼等の為に気《き》の毒《どく》であらう。若し彼等の「常談《じやうだん》」としたものを「真面目《まじめ》」と考へて見るとすれば、黄表紙《きべうし》や洒落本《しやれぼん》もその中には幾多の問題を含んでゐる。僕等は彼等の作品に随喜《ずゐき》する人人にも賛成出来ない。けれども亦《また》彼等の作品を一笑してしまふ人人にもやはり軽軽《けいけい》に賛成出来ない。
[#地から1字上げ](大正七年―十三年)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
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