だけです。」
 彼等は第二室を通り越した。第二室の外は円《まる》天井の下に左右へ露台《ろだい》を開いた部屋だった。部屋も勿論円形をしていた。そのまた円形は廊下《ろうか》ほどの幅をぐるりと周囲へ余したまま、白い大理石の欄干越《らんかんご》しにずっと下の玄関を覗《のぞ》かれるように出来上っていた。彼等は自然と大理石の欄干の外をまわりながら、篤介の家族や親戚や交友のことを話し合った。彼女は微笑を含んだまま、かなり尋ね悪《にく》い局所《きょくしょ》にも巧《たくみ》に話を進めて行った。しかしその割に彼女や辰子《たつこ》の家庭の事情などには沈黙していた。それは必ずしも最初から相手を坊《ぼっ》ちゃんと見縊《みくび》った上の打算《ださん》ではないのに違いなかった。けれどもまた坊ちゃんと見縊らなければ、彼女ももっとこちらの内輪《うちわ》を窺《うかが》わせていたことは確かだった。
「じゃ余りお友だちはおありにならないんでございますね?」(未完)
[#地から1字上げ](大正十四年四月)



底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
   1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月5日公開
2004年3月7日修正
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