胸に、薔薇《ばら》の花をさしてやりながら)わたしはあなたにすまない事をしました。あなたがこんな優《やさ》しい方だとは、夢にも知らずにいたのです。どうかかんにんして下さい。ほんとうにわたしはすまない事をしました。(王の胸にすがりながら、子供のように泣き始める)
王 (王女の髪《かみ》を撫《な》でながら)有難《ありがと》う。よくそう云ってくれました。わたしも悪魔《あくま》ではありません。悪魔も同様な黒ん坊の王は御伽噺《おとぎばなし》にあるだけです。(王子に)そうじゃありませんか?
王子 そうです。(見物に向いながら)皆さん! 我々三人は目がさめました。悪魔のような黒ん坊の王や、三つの宝を持っている王子は、御伽噺にあるだけなのです。我々はもう目がさめた以上、御伽噺の中の国には、住んでいる訣《わけ》には行きません。我々の前には霧《きり》の奥から、もっと広い世界が浮んで来ます。我々はこの薔薇と噴水との世界から、一しょにその世界へ出て行きましょう。もっと広い世界! もっと醜《みにく》い、もっと美しい、――もっと大きい御伽噺の世界! その世界に我々を待っているものは、苦しみかまたは楽しみか、我々は何
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