しながら)よし心配するな! きっとわたしが助けて見せる。
一同 (驚いたように)あなたが※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
王子 そうだ、黒ん坊の王などは何人でも来い。(腕組をしたまま、一同を見まわす)わたしは片っ端《ぱし》から退治《たいじ》して見せる。
主人 ですがあの王様には、三つの宝があるそうです。第一には千里飛ぶ長靴、第二には、――
王子 鉄でも切れる剣か? そんな物はわたしも持っている。この長靴を見ろ。この剣を見ろ。この古いマントルを見ろ。黒ん坊の王が持っているのと、寸分《すんぶん》も違わない宝ばかりだ。
一同 (再び驚いたように)その靴が※[#疑問符感嘆符、1−8−77] その剣が※[#疑問符感嘆符、1−8−77] そのマントルが※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
主人 (疑わしそうに)しかしその長靴には、穴があいているじゃありませんか?
王子 それは穴があいている。が、穴はあいていても、一飛びに千里飛ばれるのだ。
主人 ほんとうですか?
王子 (憐《あわれ》むように)お前には嘘《うそ》だと思われるかも知れない。よし、それならば飛んで見せる。入口の戸をあけて置いてくれ。好《い》いか。飛び上ったと思うと見えなくなるぞ。
主人 その前に御勘定《おかんじょう》を頂きましょうか?
王子 何、すぐに帰って来る。土産《みやげ》には何を持って来てやろう。イタリアの柘榴《ざくろ》か、イスパニアの真桑瓜《まくわうり》か、それともずっと遠いアラビアの無花果《いちじく》か?
主人 御土産《おみやげ》ならば何でも結構です。まあ飛んで見せて下さい。
王子 では飛ぶぞ。一、二、三!
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王子は勢好《いきおいよ》く飛び上る。が、戸口へも届《とど》かない内に、どたりと尻餅《しりもち》をついてしまう。
一同どっと笑い立てる。
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主人 こんな事だろうと思ったよ。
第一の農夫 干里どころか、二三間も飛ばなかったぜ。
第二の農夫 何、千里飛んだのさ。一度千里飛んで置いて、また千里飛び返ったから、もとの所へ来てしまったのだろう。
第一の農夫 冗談《じょうだん》じゃない。そんな莫迦《ばか》な事があるものか。
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一同大笑いになる。王子はす
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