イヤモンド》がついている。
第二の盗人 おれのマントルも立派《りっぱ》な物じゃないか? これをこう着た所は、殿様のように見えるだろう。
第一の盗人 この剣も大した物だぜ。何しろ柄《つか》も鞘《さや》も黄金《きん》だからな。――しかしああやすやす欺《だま》されるとは、あの王子も大莫迦《おおばか》じゃないか?
第二の盗人 しっ! 壁に耳あり、徳利《とくり》にも口だ。まあ、どこかへ行って一杯やろう。
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三人の盗人は嘲笑《あざわら》いながら、王子とは反対の路へ行ってしまう。
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二
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「黄金《きん》の角笛《つのぶえ》」と云う宿屋の酒場。酒場の隅《すみ》には王子がパンを噛《か》じっている。王子のほかにも客が七八人、――これは皆村の農夫らしい。
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宿屋の主人 いよいよ王女の御婚礼《ごこんれい》があるそうだね。
第一の農夫 そう云う話だ。なんでも御壻《おむこ》になる人は、黒ん坊の王様だと云うじゃないか?
第二の農夫 しかし王女はあの王様が大嫌《だいきら》いだと云う噂《うわさ》だぜ。
第一の農夫 嫌いなればお止しなされば好《い》いのに。
主人 ところがその黒ん坊の王様は、三つの宝ものを持っている。第一が千里飛べる長靴《ながぐつ》、第二が鉄さえ切れる剣《けん》、第三が姿の隠れるマントル、――それを皆|献上《けんじょう》すると云うものだから、欲の深いこの国の王様は、王女をやるとおっしゃったのだそうだ。
第二の農夫 御可哀《おかわい》そうなのは王女御一人だな。
第一の農夫 誰か王女をお助け申すものはないだろうか?
主人 いや、いろいろの国の王子の中には、そう云う人もあるそうだが、何分あの黒ん坊の王様にはかなわないから、みんな指を啣《くわ》えているのだとさ。
第二の農夫 おまけに欲の深い王様は、王女を人に盗まれないように、竜《りゅう》の番人を置いてあるそうだ。
主人 何、竜じゃない、兵隊だそうだ。
第一の農夫 わたしが魔法《まほう》でも知っていれば、まっ先に御助け申すのだが、――
主人 当り前さ、わたしも魔法を知っていれば、お前さんなどに任《まか》せて置きはしない。(一同笑い出す)
王子 (突然一同の中へ飛び出
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