ません。顔が美しいとか、醜いとか云ふのみで妻にしたいと云ふ様な人には到底私は身を任す事は出来ません。」と云ひますと、商人は「それでは、私の家へ来て私と同じ生活をして、私が本当にあなたを愛してゐるかどうかを見て、そして私の心が分つたならどうか私の妻になつて下さい。その間私は、あなたを妹として取扱ふでせう。」と云ひます。娘「私は、あなたと長い間お話してゐますが、未だあなたのお名前もお所も存じません。」商人「私は、父の後を継いで位についた、この国の王アブタルである。」と云つて口笛を吹きますと、何処からともなく大勢の奴隷が、象牙で拵へた美しい輿を持つて来て、その娘を乗せて宮城へと帰つて行きました。
さて、娘が王宮へ伴れて行かれた翌朝、王様はその娘と話をしようとして、娘の室に来ますと、驚いた事には、その娘の顔は一夜の中に腫物だらけとなつて、二目と見られない女となつてゐました。これを見た王様は、一瞬間これは厄介なものを背負つたと思ひましたが、その声、その態度、その頭の良さは前と決して変りはありませんので、王様は漸く安心しました。
或日、話のついでに王様は、「私は国を治めて、随分長くなるが、未だ
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