と、王冠を頂いた頭を垂れ、暫《しばら》くはじっと目を閉じていた。それから、――それから急に笑顔を挙げ、妃たちや家来たちとふだんのように話し出した。
タルシシの船やヒラムの船は三年に一度金銀や象牙や猿や孔雀を運んで来た。が、ソロモンの使者の駱駝はエルサレムを囲んだ丘陵や沙漠を一度もシバの国へ向ったことはなかった。
三 なぜロビンソンは猿を飼ったか?
なぜロビンソンは猿を飼ったか? それは彼の目のあたりに彼のカリカチュアを見たかったからである。わたしはよく承知している。銃を抱《いだ》いたロビンソンはぼろぼろのズボンの膝《ひざ》をかかえながら、いつも猿を眺めてはもの凄《すご》い微笑を浮かべていた。鉛色の顔をしかめたまま、憂鬱《ゆううつ》に空を見上げた猿を。
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集」岩波書店
1977(昭和52)年〜1978(昭和53)年発行
入力:j.utiyama
校正:多羅尾伴内
2004年1月5日作成
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