酒虫
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)燕《つばめ》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)悪い事|夥《おびただ》しい。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「白/十」、第3水準1−88−64]布衫《さうふさん》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\炎天の
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一
近年にない暑さである。どこを見ても、泥で固めた家々の屋根瓦が、鉛のやうに鈍く日の光を反射して、その下に懸けてある燕《つばめ》の巣さへ、この塩梅《あんばい》では中にゐる雛や卵を、そのまゝ蒸殺《むしころ》してしまふかと思はれる。まして、畑と云ふ畑は、麻でも黍でも、皆、土いきれにぐつたりと頭をさげて、何一つ、青いなりに、萎《しほ》れてゐないものはない。その畑の上に見える空も、この頃の温気《うんき》に中《あ》てられたせいか、地上に近い大気は、晴れながら、どんよりと濁つて、その所々に、霰《あられ》を炮烙
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