間に、何とも申し上げる語《ことば》もない、無残な御最期《ごさいご》でございます。その時の悲しさ、恐ろしさ、勿体《もったい》なさ――今になって考えましても、蔀《しとみ》に迷っている、護摩《ごま》の煙《けぶり》と、右往左往に泣き惑っている女房たちの袴の紅《あけ》とが、あの茫然とした験者《げんざ》や術師たちの姿と一しょに、ありありと眼に浮かんで、かいつまんだ御話を致すのさえ、涙が先に立って仕方がございません。が、そう云う思い出の内でも、あの御年若な若殿様が、少しも取乱した御容子《ごようす》を御見せにならず、ただ、青ざめた御顔を曇らせながら、じっと大殿様の御枕元へ坐っていらしった事を考えると、なぜかまるで磨《と》ぎすました焼刃《やきば》の※[#「均−土」、第3水準1−14−75]《にお》いでも嗅《か》ぐような、身にしみて、ひやりとする、それでいてやはり頼もしい、妙な心もちが致すのでございます。

        二

 御親子《ごしんし》の間がらでありながら、大殿様と若殿様との間くらい、御容子《ごようす》から御性質まで、うらうえなのも稀《まれ》でございましょう。大殿様は御承知の通り、大兵肥満《
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