ヨはひることにした。しかしこの小みちのまん中にも腐つた※[#「鼬」の「由」に代えて「晏」、第3水準1−94−84]鼠《もぐらもち》の死骸が一つ腹を上にして転がつてゐた。
何ものかの僕を狙つてゐることは一足毎に僕を不安にし出した。そこへ半透明な歯車も一つづつ僕の視野を遮《さへぎ》り出した。僕は愈《いよいよ》最後の時の近づいたことを恐れながら、頸すぢをまつ直《すぐ》にして歩いて行つた。歯車は数の殖えるのにつれ、だんだん急にまはりはじめた。同時に又右の松林はひつそりと枝をかはしたまま、丁度細かい切子《きりこ》硝子を透《す》かして見るやうになりはじめた。僕は動悸の高まるのを感じ、何度も道ばたに立ち止まらうとした。けれども誰かに押されるやうに立ち止まることさへ容易ではなかつた。……
三十分ばかりたつた後、僕は僕の二階に仰向けになり、ぢつと目をつぶつたまま、烈しい頭痛をこらへてゐた。すると僕の※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶた》の裏に銀色の羽根を鱗《うろこ》のやうに畳んだ翼が一つ見えはじめた。それは実際網膜の上にはつきりと映つてゐるものだつた。僕は目をあいて天井を見上げ、勿論何
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