候も同然の儀に御座候。然るに与一郎様の奥様にも御生害をお勧め遊ばされ候上は、わたくしどもにさへお伴を仕るやう、御意なされ候やも計り難く、愈《いよいよ》迷惑に存じ居り候ところ、みなみな御前へ召され候間、如何なる仰せを蒙ることかと一かたならず案じ申し候。
十八、やがて御前へ参り候へば、秀林院様御意なされ候は、愈「はらいそ」と申す極楽へ参り候はん時節も近づき、一段悦ばしく候と仰せられ候。なれどもおん顔の色は青ざめお声もやや震へ居られ候間、もとよりこれはおん偽《いつはり》と存じ上げ候。秀林院様又御意なされ候は、唯|黄泉路《よみぢ》の障《さは》りとなるはその方どもの未来なり、その方どもは心得悪しく、切支丹《きりしたん》の御宗門にも帰依《きえ》し奉らず候まま、未来は「いんへるの」と申す地獄に堕《お》ち、悪魔の餌食とも成り果て候べし。就いては今日より心を改め、天主のおん教へを守らせ候へ。もし又さもなく候はば、みなみな生害の伴《とも》を仕り、われらと共に穢土《ゑど》を去り候へ。その節はわれらより「あるかんじよ」(大天使)へ頼み、「あるかんじよ」より又おん主《あるじ》「えす・きりすと」へ頼み奉り、一同
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