死後
芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)稀《まれ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二三冊|蚊帳《かや》の中へ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+虚」、第4水準2−88−74]
−−

 ……僕は床へはいっても、何か本を読まないと、寝つかれない習慣を持っている。のみならずいくら本を読んでも、寝つかれないことさえ稀《まれ》ではない。こう言う僕の枕もとにはいつも読書用の電燈だのアダリン錠《じょう》の罎《びん》だのが並んでいる。その晩も僕はふだんのように本を二三冊|蚊帳《かや》の中へ持ちこみ、枕もとの電燈を明るくした。
「何時《なんじ》?」
 これはとうに一寝入《ひとねい》りした、隣の床にいる妻の声だった。妻は赤児に腕枕《うでまくら》をさせ、ま横にこちらを眺めていた。
「三時だ。」
「もう三時。あたし、まだ一時頃かと思っていた。」僕は好い加減な返事をしたきり、何ともその言葉に取り合わなかった。
「うるさい。うるさい
次へ
全8ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング