べき検閲官の数《すう》何人なるかを。(一月三十一日)

     誤訳

 カアライルが独逸《ドイツ》文の翻訳に誤訳指摘を試みしはデ・クインシイがさかしらなり。されどチエルシイの哲人はこの後進の鬼才を遇する事|
反《かへ》つて甚《はなはだ》篤《あつ》かりしかば、デ・クインシイも亦《また》その襟懐に服して百年の心交を結びたりと云ふ。カアライルが誤訳の如何《いか》なりしかは知らず。予が知れる誤訳の最も滑稽なるはマドンナを奥さんと訳せるものなり。訳者は楽園の門を守る下僕天使にもあらざるものを。(二月一日)

     戯訓

 往年|久米正雄《くめまさを》氏シヨウを訓して笑迂《せうう》と云ひ、イブセンを訓して燻仙《いぶせん》と云ひ、メエテルリンクを訓して瞑照燐火《めいてるりんくわ》と云ひ、チエホフを訓して知慧豊富《ちゑほうふ》と云ふ。戯訓《ぎくん》と称して可ならん乎《か》。二人比丘尼《ににんびくに》の作者|鈴木正三《すずきしやうざう》、その耶蘇教《やそけう》弁斥《べんせき》の書に題して破鬼理死端《はきりしたん》と云ふ。亦《また》悪意ある戯訓の一例たるべし。(二月二日)

     俳句

 
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