ばかの明眸《めいぼう》の女詩人《ぢよしじん》も、この短髪の老画伯も、その無声の詩と有声の画《ぐわ》とに彷弗《はうふつ》たらしめし所謂《いはゆる》支那は、寧《むし》ろ[#「寧《むし》ろ」は底本では「寧《むら》ろ」]彼等が白日夢裡《はくじつむり》に逍遙遊《せうえうゆう》を恣《ほしいまま》にしたる別乾坤《べつけんこん》なりと称すべきか。人生|幸《さいはひ》にこの別乾坤あり。誰か又|小泉八雲《こいづみやくも》と共に、天風海濤《てんぷうかいたう》の蒼々浪々たるの処、去つて還らざる蓬莱《ほうらい》の蜃中楼《しんちうろう》を歎く事をなさん。(一月二十二日)

     軽薄

 元《げん》の李※[#「行がまえ<干」、69−上−16]《りかん》、文湖州《ぶんこしう》の竹を見る数十|幅《ふく》、悉《ことごとく》意に満たず。東坡《とうば》山谷等《さんこくら》の評を読むも亦《また》思ふらく、その交親に私《わたくし》するならんと。偶《たまたま》友人|王子慶《わうしけい》と遇ひ、話次《わじ》文湖州の竹に及ぶ。子慶|曰《いはく》、君|未《いまだ》真蹟を見ざるのみ。府史の蔵本|甚《はなはだ》真《しん》、明日《みやう
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