黒衣聖母
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)呻《うめ》き泣きて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)存外|真面目《まじめ》な表情を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]
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――この涙の谷に呻《うめ》き泣きて、御身《おんみ》に願いをかけ奉る。……御身の憐みの御眼《おんめ》をわれらに廻《めぐ》らせ給え。……深く御柔軟《ごじゅうなん》、深く御哀憐、すぐれて甘《うまし》くまします「びるぜん、さんたまりや」様――
[#地から1字上げ]――和訳「けれんど」――
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「どうです、これは。」
田代《たしろ》君はこう云いながら、一体の麻利耶観音《マリヤかんのん》を卓子《テーブル》の上へ載せて見せた。
麻利耶観音と称するのは、切支丹宗門《きりしたんしゅうもん》禁制時代の天主教徒《てんしゅきょうと》が、屡《しばしば》聖母《せいぼ》麻利耶の代りに礼拝《らいはい》した、多くは白磁《はくじ》の観音像である。が、今田代君が見せてくれた
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