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 レエスやナプキンの中へずり落ちる道。
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 碓氷《うすひ》山上の月、――月にもかすかに苔《こけ》が生えてゐる。
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 H老夫人の死、――霧は仏蘭西《フランス》の幽霊に似てゐる。
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 馬蝿《うまばへ》は水星にも群《むらが》つて行つた。
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 ハムモツクを額に感じるうるささ。
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 雷《かみなり》は胡椒《こせう》よりも辛《から》い。
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「巨人《きよじん》の椅子《いす》」と云う岩のある山、――瞬《またた》かない顔が一つ見える。
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 あの家は桃色の歯齦《はぐき》をしてゐる。
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 羊の肉には羊歯《しだ》の葉を添へ給へ。
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 さやうなら。手風琴《てふうきん》の町、さようなら、僕の抒情詩《ぢよじやうし》時代。
[#地から1字上げ](大正十四年稿)



底本:「芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行
入力校正:j.utiyama
1999年2月15日公開
2003年10月7日修正
青空
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