兄貴のような心持
――菊池寛氏の印象――
芥川龍之介
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)然《しから》める所にも
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)一日ぶら/\して
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
自分は菊池寛と一しょにいて、気づまりを感じた事は一度もない。と同時に退屈した覚えも皆無である。菊池となら一日ぶら/\していても、飽きるような事はなかろうと思う。(尤も菊池は飽きるかも知れないが、)それと云うのは、菊池と一しょにいると、何時も兄貴と一しょにいるような心もちがする。こっちの善い所は勿論了解してくれるし、よしんば悪い所を出しても同情してくれそうな心もちがする。又実際、過去の記憶に照して見ても、そうでなかった事は一度もない。唯、この弟たるべき自分が、時々向うの好意にもたれかゝって、あるまじき勝手な熱を吹く事もあるが、それさえ自分に云わせると、兄貴らしい気がすればこそである。
この兄貴らしい心もちは、勿論一部は菊池の学殖が然《しから》しめる所にも相違ない。彼のカルテュアは多方面で、しかもそれ/″\に理
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