か興味のあることらしかった。のみならず時々僕の顔へ彼等の目をやる所を見ると、少くとも幾分かは僕自身にも関係を持ったことらしかった。僕は人目には平然と巻煙草を銜《くわ》えていたものの、だんだん苛立《いらだ》たしさを感じはじめた。
「莫迦《ばか》! 何を話しているんだ?」
「何、きょう嶽麓《がくろく》へ出かける途中、玉蘭に遇《あ》ったことを話しているんだ。それから……」
 譚は上脣《うわくちびる》を嘗《な》めながら、前よりも上機嫌につけ加えた。
「それから君は斬罪と言うものを見たがっていることを話しているんだ。」
「何だ、つまらない。」
 僕はこう言う説明を聞いても、未《いま》だに顔を見せない玉蘭は勿論、彼女の友だちの含芳にも格別気の毒とは思わなかった。けれども含芳の顔を見た時、理智的には彼女の心もちを可也《かなり》はっきりと了解した。彼女は耳環《みみわ》を震わせながら、テエブルのかげになった膝の上に手巾《ハンケチ》を結んだり解いたりしていた。
「じゃこれもつまらないか?」
 譚は後にいた鴇婦の手から小さい紙包みを一つ受け取り、得々とそれをひろげだした。その又紙の中には煎餅《せんべい》位大
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