のさへ宦官たちにかんで貰ふと言ふことである。
 第六号。リディア王の宰相の子。別にこれと言ふ欠点はない。が、先妻や側室の子が二十五人あり、その中の一人は両脚とも鶏になつてゐると言ふ怪物である。
 第七号。メディア王の宰相の子。武勇に富んでゐると言ふ評判である。しかし今は借金の為に父親の首も売り兼ねないらしい。
 第八号。ユダヤ王の宰相の子。詩や音楽に巧みださうである。けれども男色を好んでゐるから、到底結婚などはしないであらう。
 第九号。エヂプトの王子。容貌も美しいし、学問にも富んでゐるし、その上弓を引かせては誰も並ぶもののないと言ふことである。この王子と結婚するのならば、沙漠の長旅も楽しいかも知れない。あしたにも早速両陛下に、――今しがた聞いた所によれば、王子は生憎水浴中に鰐に食はれてしまつたさうである。
 第十号。魔神《ヂン》の王ヂアン・ベン・ヂアン。居所不明。
 勿論候補者は必しもこれだけと言ふ訳ではありません。現に「東洋文庫」のアラビアの部の「Z」の百三十八号文書は実に二百八十人の候補者の名を挙げてゐます。が、畢竟どの候補者もゼライイドの希望に副《そ》はなかつたのでせう。ゼライ
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング