易い。御恥しいが僕の悪作の中にはさう云ふ器用さだけの作品も交つてゐる。これは恐らく如何なる僕の敵と雖も、喜んで認める真理だらう。だが――
          ×
 僕の安住したがる性質は、上品に納り返つてゐるとその儘僕を風流の魔子《まし》に堕落させる惧がある。この性質が吹き切らない限り、僕は人にも僕自身にも僕の信ずる所をはつきりさせて、自他に対する意地づくからも、殻の出来る事を禦《ふせ》がねばならぬ。僕がこんな饒舌を弄する気になつたのもその為だ。追々僕も一生懸命にならないと、浮ばれない時が近づくらしい。(八・十・八)



底本:「芥川龍之介全集 第五巻」岩波書店
   1996(平成8)年3月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:松永正敏
2002年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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