鬼ごつこ
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)丁度《ちやうど》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]ひ
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 彼は或町の裏に年下の彼女と鬼ごつこをしてゐた。まだあたりは明るいものの、丁度《ちやうど》町角の街燈には瓦斯《ガス》のともる時分だつた。
「ここまで来い。」
 彼は楽々と逃げながら、鬼になつて来る彼女を振りかへつた。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追ひかけて来た。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。
 その顔は可也《かなり》長い間《あひだ》、彼の心に残つてゐた。が、年月《としつき》の流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。
 それから二十年ばかりたつた後《のち》、彼は雪国《ゆきぐに》の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた。窓の外が暗くなるのにつれ、沾《し》めつた靴《くつ》や外套《ぐわいたう》の※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]ひが急に身にしみる時分だつ
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