すまいか。その怪物が居ります限り、今日《きょう》私を狂人と嘲笑《あざわら》っている連中でさえ、明日《あす》はまた私と同様な狂人にならないものでもございません。――とまあ私は考えて居《お》るのでございますが、いかがなものでございましょう。」
ランプは相不変《あいかわらず》私とこの無気味《ぶきみ》な客との間に、春寒い焔を動かしていた。私は楊柳観音《ようりゅうかんのん》を後《うしろ》にしたまま、相手の指の一本ないのさえ問い質《ただ》して見る気力もなく、黙然《もくねん》と坐っているよりほかはなかった。
[#地から1字上げ](大正八年六月)
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年12月1日第1刷発行
1996(平成8)年4月1日第8刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月8日公開
2004年3月7日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全15ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング