機関車を見ながら
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)尤《もつと》も
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一本|斜《ななめ》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和二年七月)
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……わたしの子供たちは、機関車の真似をしてゐる。尤《もつと》も動かずにゐる機関車ではない。手をふつたり、「しゆつしゆつ」といつたり、進行中の機関車の真似をしてゐる。これはわたしの子供たちに限つたことではないであらう。ではなぜ機関車の真似をするか? それはもちろん機関車に何か威力を感じるからである。或は彼等自身も機関車のやうに激しい生命を持ちたいからである。かういふ要求を持つてゐるのは子供たちばかりに限つてゐない。大人《おとな》たちもやはり同じことである。
ただ大人たちの機関車は言葉通りの機関車ではない。しかしそれぞれ突進し、しかも軌道《きだう》の上を走ることもやはり機関車と同じことである。この軌道は或は金銭であり、或は又名誉であり、最後に或は女人《によにん》であらう。我々は子供と大人とを問はず、
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