った頃ですから、『いや一向同情は出来ない。廃刀令《はいとうれい》が出たからと云って、一揆《いっき》を起すような連中は、自滅する方が当然だと思っている。』と、至極冷淡な返事をしますと、彼は不服そうに首を振って、『それは彼等の主張は間違っていたかもしれない。しかし彼等がその主張に殉《じゅん》じた態度は、同情以上に価すると思う。』と、云うのです。そこで私がもう一度、『じゃ君は彼等のように、明治の世の中を神代《かみよ》の昔に返そうと云う子供じみた夢のために、二つとない命を捨てても惜しくないと思うのか。』と、笑いながら反問しましたが、彼はやはり真面目な調子で、『たとい子供じみた夢にしても、信ずる所に殉ずるのだから、僕はそれで本望だ。』と、思い切ったように答えました。その時はこう云う彼の言《ことば》も、単に一場の口頭語として、深く気にも止めませんでしたが、今になって思い合わすと、実はもうその言《ことば》の中に傷《いたま》しい後年の運命の影が、煙のように這いまわっていたのです。が、それは追々《おいおい》話が進むに従って、自然と御会得《ごえとく》が参るでしょう。
「何しろ三浦は何によらず、こう云う態度
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