ブル》の上へ落したり、あるいはまた自分の洒落《しゃれ》を声高《こわだか》に笑ったり、何かしら不快な事をしでかして、再び私の反感を呼び起してしまうのです。ですから彼が三十分ばかり経って、会社の宴会とかへ出るために、暇《いとま》を告げて帰った時には、私は思わず立ち上って、部屋の中の俗悪な空気を新たにしたい一心から、川に向った仏蘭西窓《フランスまど》を一ぱいに大きく開きました。すると三浦は例の通り、薔薇《ばら》の花束を持った勝美《かつみ》夫人の額の下に坐りながら、『ひどく君はあの男が嫌いじゃないか。』と、たしなめるような声で云うのです。私『どうも虫が好かないのだから仕方がない。あれがまた君の細君の従弟だとは不思議だな。』三浦『不思議――だと云うと?』私『何。あんまり人間の種類が違いすぎるからさ。』三浦はしばらくの間《あいだ》黙って、もう夕暮の光が漂《ただよ》っている大川の水面をじっと眺めていましたが、やがて『どうだろう。その中に一つ釣《つり》にでも出かけて見ては。』と、何の取《とっ》つきもない事を云い出しました。が、私は何よりもあの細君の従弟から、話題の離れるのが嬉しかったので、『よかろう。
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