海のほとり
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)午飯《ひるめし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)六畳|二間《ふたま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+虚」、第4水準2−88−74]
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        一

 ……雨はまだ降りつづけていた。僕等は午飯《ひるめし》をすませた後《のち》、敷島《しきしま》を何本も灰にしながら、東京の友だちの噂《うわさ》などした。
 僕等のいるのは何もない庭へ葭簾《よしず》の日除《ひよ》けを差しかけた六畳|二間《ふたま》の離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺《うみべ》に多い弘法麦《こうぼうむぎ》だけは疎《まば》らに砂の上に穂《ほ》を垂れていた。その穂は僕等の来た時にはまだすっかり出揃《でそろ》わなかった。出ているのもたいていはまっ青《さお》だった。が、今はいつのまにかどの穂も同じように狐色《きつねいろ》に変り、穂先ごとに滴《しずく》をやどしていた。
「さあ、仕事でもす
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