こなん》、漢口《かんこう》、支那風韻記《しなふういんき》、支那――
編輯者 それをみんな読んだのですか?
小説家 何、まだ一冊も読まないのです。それから支那人が書いた本では、大清一統志《たいしんいっとうし》、燕都遊覧志《えんとゆうらんし》、長安客話《ちょうあんかくわ》、帝京《ていきょう》――
編輯者 いや、もう本の名は沢山です。
小説家 まだ西洋人が書いた本は、一冊も云わなかったと思いますが、――
編輯者 西洋人の書いた支那の本なぞには、どうせ碌《ろく》な物はないでしょう。それより小説は出発|前《まえ》に、きっと書いて貰えるでしょうね。
小説家 (急に悄気《しょげ》る)さあ、とにかくその前には、書き上げるつもりでいるのですが、――
編輯者 一体|何時《いつ》出発する予定ですか?
小説家 実は今日《きょう》出発する予定なのです。
編輯者 (驚いたように)今日ですか?
小説家 ええ、五時の急行に乗る筈なのです。
編輯者 するともう出発前には、半時間しかないじゃありませんか?
小説家 まあそう云う勘定《かんじょう》です。
編輯者 (腹を立てたように)では小説はどうなるのですか?
小説家 (い
前へ
次へ
全17ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング