隅から、早速二人のまん中へ、紫檀《したん》の小机を持ち出した。そうしてその机の上へ、恭《うやうや》しそうに青磁《せいじ》の香炉《こうろ》や金襴《きんらん》の袋を並べ立てた。
「その御親戚は御幾《おいく》つですな?」
 お蓮は男の年を答えた。
「ははあ、まだ御若いな、御若い内はとかく間違いが起りたがる。手前《てまえ》のような老爺《おやじ》になっては、――」
 玄象道人はじろりとお蓮を見ると、二三度|下《げ》びた笑い声を出した。
「御生れ年も御存知かな? いや、よろしい、卯《う》の一白《いっぱく》になります。」
 老人は金襴の袋から、穴銭《あなせん》を三枚取り出した。穴銭は皆一枚ずつ、薄赤い絹に包んであった。
「私の占いは擲銭卜《てきせんぼく》と云います。擲銭卜は昔|漢《かん》の京房《けいぼう》が、始めて筮《ぜい》に代えて行ったとある。御承知でもあろうが、筮と云う物は、一爻《いっこう》に三変の次第があり、一卦《いっけ》に十八変の法があるから、容易に吉凶を判じ難い。そこはこの擲銭卜の長所でな、……」
 そう云う内に香炉からは、道人の燻《く》べた香《こう》の煙が、明《あかる》い座敷の中に上《の
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