らは小さかったのでしょう!)しばらくこの建築よりもむしろ途方もない怪物に近い稀代《きだい》の大寺院を見上げていました。
 大寺院の内部もまた広大です。そのコリント風の円柱の立った中には参詣《さんけい》人が何人も歩いていました。しかしそれらは僕らのように非常に小さく見えたものです。そのうちに僕らは腰の曲がった一匹の河童《かっぱ》に出合いました。するとラップはこの河童にちょっと頭を下げた上、丁寧《ていねい》にこう話しかけました。
「長老、御《ご》達者なのは何よりもです。」
 相手の河童もお時宜《じぎ》をした後《のち》、やはり丁寧に返事をしました。
「これはラップさんですか? あなたも相変わらず、――(と言いかけながら、ちょっと言葉をつがなかったのはラップの嘴《くちばし》の腐っているのにやっと気がついたためだったでしょう。)――ああ、とにかく御丈夫らしいようですね。が、きょうはどうしてまた……」
「きょうはこの方《かた》のお伴をしてきたのです。この方はたぶん御承知のとおり、――」
 それからラップは滔々《とうとう》と僕のことを話しました。どうもまたそれはこの大寺院へラップがめったに来ないこと
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