いる、そのまたロッペを支配しているものは Pou−Fou 新聞の(この『プウ・フウ』という言葉もやはり意味のない間投詞《かんとうし》です。もし強《し》いて訳すれば、『ああ』とでも言うほかはありません。)社長のクイクイです。が、クイクイも彼自身の主人というわけにはゆきません。クイクイを支配しているものはあなたの前にいるゲエルです。」
「けれども――これは失礼かもしれませんけれども、プウ・フウ新聞は労働者の味かたをする新聞でしょう。その社長のクイクイもあなたの支配を受けているというのは、……」
「プウ・フウ新聞の記者たちはもちろん労働者の味かたです。しかし記者たちを支配するものはクイクイのほかはありますまい。しかもクイクイはこのゲエルの後援を受けずにはいられないのです。」
ゲエルは相変わらず微笑しながら、純金の匙《さじ》をおもちゃにしています。僕はこういうゲエルを見ると、ゲエル自身を憎むよりも、プウ・フウ新聞の記者たちに同情の起こるのを感じました。するとゲエルは僕の無言にたちまちこの同情を感じたとみえ、大きい腹をふくらませてこう言うのです。
「なに、プウ・フウ新聞の記者たちも全部労働者の
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