問 君――或は心霊諸君は死後も尚名声を欲するや?
答 少くとも予は欲せざる能はず。然れども予の邂逅したる日本の一詩人の如きは死後の名声を軽蔑し居たり。
問 君はその詩人の姓名を知れりや?
答 予は不幸にも忘れたり。唯彼の好んで作れる十七字詩の一章を記憶するのみ。
問 その詩は如何?
答「古池や蛙飛びこむ水の音」。
問 君はその詩を佳作なりと做《な》すや?
答 予は必しも悪作なりと做さず。唯「蛙」を「河童」とせん乎、更に光彩陸離たるべし。
問 然らばその理由は如何?
答 我等河童は如何なる芸術にも河童を求むること痛切なればなり。
会長ペツク氏はこの時に当り、我等十七名の会員にこは心霊学協会の臨時調査会にして合評会にあらざるを注意したり。
問 心霊諸君の生活は如何?
答 諸君の生活と異ること無し。
問 然らば君は君自身の自殺せしを後悔するや?
答 必しも後悔せず。予は心霊的生活に倦まば、更にピストルを取りて自活[#「自活」に傍点]すべし。
問 自活[#「自活」に傍点]するは容易なりや否や?
トツク君の心霊はこの問に答ふるに更に問を以てしたり。こはトツク君を
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