かしそれ等は僕等のやうに非常に小さく見えたものです。そのうちに僕等は腰の曲つた一匹の河童に出合ひました。するとラツプはこの河童にちよつと頭を下げた上、丁寧にかう話しかけました。
「長老、御達者なのは何よりもです。」
相手の河童もお時宜をした後、やはり丁寧に返事をしました。
「これはラツプさんですか? あなたも不相変、――(と言ひかけながら、ちよつと言葉をつがなかつたのはラツプの嘴の腐つてゐるのにやつと気がついた為だつたでせう。)――ああ、兎に角御丈夫らしいやうですね。が、けふはどうして又……」
「けふはこの方のお伴をして来たのです。この方は多分御承知の通り、――」
それからラツプは滔々と僕のことを話しました。どうも又それはこの大寺院へラツプが滅多に来ないことの弁解にもなつてゐたらしいのです。
「就いてはどうかこの方の御案内を願ひたいと思ふのですが。」
長老は大様に微笑しながら、まづ僕に挨拶をし、静かに正面の祭壇を指さしました。
「御案内と申しても、何も御役に立つことは出来ません。我々信徒の礼拝するのは正面の祭壇にある『生命の樹』です。『生命の樹』には御覧の通り、金と緑との果《み》
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