のは何よりも先に善悪を絶した超人でなければならぬと云ふのです。尤もこれは必しもトツク一匹の意見ではありません。トツクの仲間の詩人たちは大抵同意見を持つてゐるやうです。現に僕はトツクと一しよに度たび超人倶楽部へ遊びに行きました。超人倶楽部に集まつて来るのは詩人、小説家、戯曲家、批評家、画家、音楽家、彫刻家、芸術上の素人等です。しかしいづれも超人です。彼等は電燈の明るいサロンにいつも快活に話し合つてゐました。のみならず時には得々と彼等の超人ぶりを示し合つてゐました。たとへば或彫刻家などは大きい鬼羊歯《おにしだ》の鉢植ゑの間に年の若い河童をつかまへながら、頻に男色を弄んでゐました。又或雌の小説家などはテエブルの上に立ち上つたなり、アブサントを六十本飲んで見せました。尤もこれは六十本目にテエブルの下へ転げ落ちるが早いか、忽ち往生してしまひましたが。
僕は或月の好い晩、詩人のトツクと肘を組んだまま、超人倶楽部から帰つて来ました。トツクはいつになく沈みこんで一ことも口を利かずにゐました。そのうちに僕等は火《ほ》かげのさした、小さい窓の前を通りかかりました。その又窓の向うには夫婦らしい雌雄の河童が
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