黄粱夢
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)盧生《ろせい》

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(例)[#地から1字上げ](大正六年十月)
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 盧生《ろせい》は死ぬのだと思った。目の前が暗くなって、子や孫のすすり泣く声が、だんだん遠い所へ消えてしまう。そうして、眼に見えない分銅《ふんどう》が足の先へついてでもいるように、体が下へ下へと沈んで行く――と思うと、急にはっと何かに驚かされて、思わず眼を大きく開いた。
 すると枕もとには依然として、道士《どうし》の呂翁《ろおう》が坐っている。主人の炊《かし》いでいた黍《きび》も、未《いま》だに熟さないらしい。盧生は青磁の枕から頭をあげると、眼をこすりながら大きな欠伸《あくび》をした。邯鄲《かんたん》の秋の午後は、落葉《おちば》した木々の梢《こずえ》を照らす日の光があってもうすら寒い。
「眼がさめましたね。」呂翁は、髭《ひげ》を噛みながら、笑《えみ》を噛み殺すような顔をして云った。
「ええ」
「夢をみましたろう。」
「見ました。」
「どんな夢を見ました。」
「何でも大へん長い夢です
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