。」
宗俊は肩をゆすった。四方《あたり》を憚《はばか》って笑い声を立てなかったのである。
「よし、真鍮なら、真鍮にして置け。己《おれ》が拝領と出てやるから。」
「どうして、また、金だと云うのだい。」了哲の自信は、怪しくなったらしい。
「手前たちの思惑《おもわく》は先様《さきさま》御承知でよ。真鍮と見せて、実は金無垢を持って来たんだ。第一、百万石の殿様が、真鍮の煙管を黙って持っている筈がねえ。」
宗俊は、口早にこう云って、独り、斉広の方へやって行った。あっけにとられた了哲を、例の西王母《せいおうぼ》の金襖の前に残しながら。
それから、半時《はんとき》ばかり後《のち》である。了哲は、また畳廊下《たたみろうか》で、河内山に出っくわした。
「どうしたい、宗俊、一件は。」
「一件た何だ。」
了哲は、下唇をつき出しながら、じろじろ宗俊の顔を見て、
「とぼけなさんな。煙管の事さ。」
「うん、煙管か。煙管なら、手前にくれてやらあ。」
河内山は懐から、黄いろく光る煙管を出したかと思うと、了哲の顔へ抛《ほう》りつけて、足早に行ってしまった。
了哲は、ぶつけられた所をさすりながら、こぼしこぼし、
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