ず肚胸《とむね》をついたそうでございます。
「物にもよりますが、こんな財物《たから》を持っているからは、もう疑《うたがい》はございませぬ。引剥《ひはぎ》でなければ、物盗《ものと》りでございます。――そう思うと、今まではただ、さびしいだけだったのが、急に、怖いのも手伝って、何だか片時《かたとき》もこうしては、いられないような気になりました。何さま、悪く放免《ほうめん》の手にでもかかろうものなら、どんな目に遭《あ》うかも知れませぬ。
「そこで、逃げ場をさがす気で、急いで戸口の方へ引返そうと致しますと、誰だか、皮匣《かわご》の後《うしろ》から、しわがれた声で呼びとめました。何しろ、人はいないとばかり思っていた所でございますから、驚いたの驚かないのじゃございませぬ。見ると、人間とも海鼠《なまこ》ともつかないようなものが、砂金の袋を積んだ中に、円《まる》くなって、坐って居ります。――これが目くされの、皺《しわ》だらけの、腰のまがった、背の低い、六十ばかりの尼法師《あまほうし》でございました。しかも娘の思惑《おもわく》を知ってか知らないでか、膝《ひざ》で前へのり出しながら、見かけによらない猫撫声《
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