僕等を支配する 〔Daimo^n〕 だ。
或声 お前はお前自身を祝福しろ。俺は誰にでも話しには来ない。
僕 いや、僕は誰よりもお前の来るのを警戒するつもりだ。お前の来る所に平和はない。しかもお前はレントゲンのやうにあらゆるものを滲透して来るのだ。
或声 では今後も油断するな。
僕 勿論今後は油断しない。唯ペンを持つてゐる時には……
或声 ペンを持つてゐる時には来いと云ふのだな。
僕 誰が来いと云ふものか! 僕は群小作家の一人だ。又群小作家の一人になりたいと思つてゐるものだ。平和はその外に得られるものではない。しかしペンを持つてゐる時にはお前の俘《とりこ》になるかも知れない。
或声 ではいつも気をつけてゐろよ。第一俺はお前の言葉を一々実行に移すかも知れない。ではさやうなら。いつか又お前に会ひに来るから。
僕 (一人になる。)芥川龍之介! 芥川龍之介、お前の根をしつかりとおろせ。お前は風に吹かれてゐる葦《あし》だ。空模様はいつ何時変るかも知れない。唯しつかり踏んばつてゐろ。それはお前自身の為だ。同時に又お前の子供たちの為だ。うぬ惚《ぼ》れるな。同時に卑屈にもなるな。これからお前はやり直すの
前へ 次へ
全15ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング