ば、孝子三八に賜《たまは》ると書付はなけれ共、まづ蓋《ふた》をひらけば、内よりによつと塩竹の子、金《かね》もらうたよりうれしく、(中略)女房にかくとしらすれば、同じ心の姑《しうとめ》思ひ、手ばやに塩だし鰹《かつを》かき、即時に羹《あつもの》となしてあたへける。其味|生《なま》なるにかはる事なく、母もよろこび大方《おほかた》ならず、いか成《なる》人のここに落せしや、是又|壱《ひと》つのふしぎ也。
「しかるにかほど孝心厚き者なれ共、※[#「てへん+峠のつくり」、第3水準1−84−76]《かせ》げばかせぐほど貧しく成り、次第/\に家をとろへ、今は朝夕《あさゆふ》のけぶりさへたえ/″\に成りければ、三八《さんぱち》女房に云ふやう、(中略)ふたりが中にまうけし娘ことし十五まで育てぬれ共、(中略)かれを都の方《かた》へつれ行き、勤奉公《つとめぼうこう》とやらんをさせ、給銀《きふぎん》にて一※[#「てへん+峠のつくり」、第3水準1−84−76]《ひとかせぎ》して見んと思ふはいかにと尋ぬるにぞ、わらはも疾《と》くよりさやうには思ひ候《さふら》へ共、(中略)と答へける。(中略)三八は身ごしらへして、娘う
前へ 次へ
全13ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング