或恋愛小説
――或は「恋愛は至上なり」――
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)肥《ふと》った

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)近代的|懐疑《かいぎ》とか

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「景+頁」、第3水準1−94−5]
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 ある婦人雑誌社の面会室。
 主筆 でっぷり肥《ふと》った四《し》十前後の紳士《しんし》。
 堀川保吉《ほりかわやすきち》 主筆の肥っているだけに痩《や》せた上にも痩せて見える三十前後の、――ちょっと一口には形容出来ない。が、とにかく紳士と呼ぶのに躊躇《ちゅうちょ》することだけは事実である。
 主筆 今度は一つうちの雑誌に小説を書いては頂けないでしょうか? どうもこの頃は読者も高級になっていますし、在来の恋愛小説には満足しないようになっていますから、……もっと深い人間性に根ざした、真面目《まじめ》な恋愛小説を書いて頂きたいのです。
 保吉 それは書きますよ。実はこの頃婦人雑誌に書きたいと
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