、早くも黄昏《たそがれ》がひろがろうとするらしい。が、障子の中では、不相変《あいかわらず》面白そうな話声がつづいている。彼はそれを聞いている中に、自《おのずか》らな一味の哀情が、徐《おもむろ》に彼をつつんで来るのを意識した。このかすかな梅の匂につれて、冴《さえ》返る心の底へしみ透って来る寂しさは、この云いようのない寂しさは、一体どこから来るのであろう。――内蔵助は、青空に象嵌《ぞうがん》をしたような、堅く冷《つめた》い花を仰ぎながら、いつまでもじっと彳《たたず》んでいた。
[#地から1字上げ](大正六年八月十五日)
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日第1刷発行
1996(平成8)年7月15日第11刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:野口英司
校正:もりみつじゅんじ
1997年11月17日公開
2004年3月7日修正
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