或日の大石内蔵助
芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)障子《しょうじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)元|浅野内匠頭《あさのたくみのかみ》家来

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「白+轢のつくり」、第3水準1−88−69]
−−

 立てきった障子《しょうじ》にはうららかな日の光がさして、嵯峨《さが》たる老木の梅の影が、何間《なんげん》かの明《あかる》みを、右の端から左の端まで画の如く鮮《あざやか》に領している。元|浅野内匠頭《あさのたくみのかみ》家来、当時|細川家《ほそかわけ》に御預り中の大石内蔵助良雄《おおいしくらのすけよしかつ》は、その障子を後《うしろ》にして、端然と膝を重ねたまま、さっきから書見に余念がない。書物は恐らく、細川家の家臣の一人が借してくれた三国誌の中の一冊であろう。
 九人一つ座敷にいる中《うち》で、片岡源五右衛門《かたおかげんごえもん》は、今し方|厠《かわや》へ立った。早水藤左衛門《はやみと
次へ
全23ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング