つた。
 彼は確《たしか》に落伍者《らくごしや》だつた。が、彼の「リイプクネヒトを憶ふ」は或青年を動かしてゐた。それは株に手を出した挙句《あげく》、親譲りの財産を失つた大阪の或青年だつた。その青年は彼の論文を読み、それを機縁《きえん》に社会主義者になつた。が、勿論そんなことは彼には全然わからなかつた。彼は今でも籐《とう》椅子により、一本の葉巻を楽しみながら、彼の青年時代を思ひ出してゐる、人間的に、恐らくは余りに人間的に。
[#地から1字上げ](大正一五・一二・一〇)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
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