或社会主義者
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)勘当《かんだう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|籐椅子《とういす》により

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十五・一二・一〇)
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 彼は若い社会主義者だつた。或小官吏だつた彼の父はそのためにかれを勘当《かんだう》しようとした。が、彼は屈しなかつた。それは彼の情熱が烈しかつたためでもあり、又一つには彼の友だちが彼を激励したためでもあつた。
 彼等は或団体をつくり、十ペエジばかりのパンフレツトを出したり、演説会を開いたりしてゐた。彼も勿論彼等の会合へ絶えず顔を出した上、時々そのパンフレツトへ彼の論文を発表した。彼の論文は彼等以外に誰も余り読まないらしかつた。しかし彼はその中の一篇、――「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇に多少の自信を抱《いだ》いてゐた。それは緻密《ちみつ》な思索《しさく》はないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
 そのうちに彼は学校を出、或雑誌社へ勤めることになつた。けれども彼等の会合へ顔を出すこ
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