或旧友へ送る手記
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)尤《もつと》も
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)万一|成就《じやうじゆ》するとしても
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#始め二重括弧、1−2−54]
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誰もまだ自殺者自身の心理をありのままに書いたものはない。それは自殺者の自尊心や或は彼自身に対する心理的興味の不足によるものであらう。僕は君に送る最後の手紙の中に、はつきりこの心理を伝へたいと思つてゐる。尤《もつと》も僕の自殺する動機は特に君に伝へずとも善《い》い。レニエは彼の短篇の中に或自殺者を描いてゐる。この短篇の主人公は何の為に自殺するかを彼自身も知つてゐない。君は新聞の三面記事などに生活難とか、病苦とか、或は又精神的苦痛とか、いろいろの自殺の動機を発見するであらう。しかし僕の経験によれば、それは動機の全部[#「動機の全部」に傍点]ではない。のみならず大抵は動機に至る道程を示してゐるだけである。自殺者は
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