ら、しみじみかう思はずにはゐられなかつた。――「何の為にこいつも生まれて来たのだらう? この娑婆苦《しやばく》の充ち満ちた世界へ。――何の為に又こいつも己《おれ》のやうなものを父にする運命を荷《にな》つたのだらう?」
しかもそれは彼の妻が最初に出産した男の子だつた。
二十五 ストリントベリイ
彼は部屋の戸口に立ち、柘榴《ざくろ》の花のさいた月明りの中に薄汚い支那人が何人か、麻雀戯《マアチアン》をしてゐるのを眺めてゐた。それから部屋の中へひき返すと、背の低いランプの下に「痴人の告白」を読みはじめた。が、二|頁《ペエジ》も読まないうちにいつか苦笑を洩らしてゐた。――ストリントベリイも亦情人だつた伯爵夫人へ送る手紙の中に彼と大差のない※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》を書いてゐる。……
二十六 古代
彩色の剥《は》げた仏たちや天人や馬や蓮の華《はな》は殆ど彼を圧倒した。彼はそれ等を見上げたまま、あらゆることを忘れてゐた。狂人の娘の手を脱した彼自身の幸運さへ。……
二十七 スパルタ式訓練
彼は彼の友だちと或裏町を歩いてゐ
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