玉の三日の月めき、
綵衣《さいい》の人ら
逆様《さかさま》に酒のめる見ゆ、
陶器の亭のもなかに。
[#ここで字下げ終わり]

     夕明り
      ――Eunice Tietjens――

 乾いた秋の木の葉の上に、雨がぱらぱら落ちるやうだ。美しい狐の娘さんたちが、小さな足音をさせて行くのは。

     洒落者《しやれもの》
        ――同上――

 彼は緑の絹の服を着ながら、さもえらさうに歩いてゐる。彼の二枚の上着には、毛皮の縁がとつてある。彼の天鵞絨《びろうど》の靴の上には、※[#「ころもへん+庫」、第3水準1−91−85]子《くうづ》の裾を巻きつけた、意気な蹠《くるぶし》が動いてゐる。ちらちらと愉快さうに。
 彼の爪は非常に長い。
 朱君は全然流行の鏡とも云ふべき姿である!
 その華奢《きやしや》な片手には、――これが最後の御定《おきま》りだが、――竹の鳥籠がぶらついてゐる。その中には小さい茶色の鳥が、何時でも驚いたやうな顔をしてゐる。
 朱君は寛濶《かんくわつ》な微笑を浮べる。流行と優しい心、と、この二つを二つながら、満足させた人の微笑である。鳥も外出が必要ではないか?

     作詩術
        ――同上――

 二人の宮人は彼の前に、石竹《せきちく》の花の色に似た、絹の屏風を開いてゐる。一人の嬪妃《ひんき》は跪《ひざまづ》きながら、彼の硯を守つてゐる。その時泥酔した李太白《りたいはく》は、天上一片の月に寄せる、激越な詩を屏風に書いた。
[#地から1字上げ](大正十一年一月)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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