メンケラが尊い秘文の歌を謡つて聞かせたりする。けれども王は余りそんな物には気を止めない。其代り沙漠のはてにちやんと坐つて耳を立ててゐるジヤツカルと云ふ獣を見て面白がつてゐるのである。
十二日の旅が了《をは》ると、漸く薔薇のにほひがし始めた。それからぢきに、シバの市をめぐつてゐる庭園が見え出した。一行は通りすがりに、花ざかりの柘榴《ざくろ》の木の下で若い女が大ぜい踊つてゐるのに遇つた。
『踊は祈祷ぢや』と魔法師のセムボビチスが云ふ。
『あのをな子どもはよい価に売れるわ』と宦官のメンケラが云ふ。
市へはひると、倉庫と工場とが何処迄もつづいてゐる。其中には又無量の商品が山の如く積んである。之が先づ一行の眼を驚かした。
それから長い間市を歩いた。市は路車や搬夫や驢馬や驢馬追ひで埋められてゐるのである。すると眼界が急に開けて、バルキスの王宮の大理石の壁と紫の※[#「亦/巾」、第4水準2−8−85]幕《ひらまく》と金の円天井とが一行の眼の前に現れた。
シバの女王は一行を庭上に迎へた。香水の噴きあげが涼を揺つてゐる。噴きあげは真珠の雨のやうなうつくしい音を立てて滴るのである。
ほほゑみなが
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