のような妙子です。それが何故《なぜ》か遠藤には、頭《かしら》に毫光《ごこう》でもかかっているように、厳《おごそ》かな感じを起させました。
「御嬢さん、御嬢さん」
 遠藤は椅子へ行くと、妙子の耳もとへ口をつけて、一生懸命に叫び立てました。が、妙子は眼をつぶったなり、何とも口を開きません。
「御嬢さん。しっかりおしなさい。遠藤です」
 妙子はやっと夢がさめたように、かすかな眼を開きました。
「遠藤さん?」
「そうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げましょう」
 妙子はまだ夢現《ゆめうつつ》のように、弱々しい声を出しました。
「計略は駄目だったわ。つい私が眠ってしまったものだから、――堪忍《かんにん》して頂戴よ」
「計略が露顕したのは、あなたのせいじゃありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑《かか》った真似《まね》をやり了《おお》せたじゃありませんか?――そんなことはどうでも好《い》いことです。さあ、早く御逃げなさい」
 遠藤はもどかしそうに、椅子から妙子を抱き起しました。
「あら、嘘《うそ》。私は眠ってしまったのですもの。どんなことを言ったか、知り
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